イスラムの歴史 (2012-6-16)

(2012-6-16)　預言者エリヤ　もう一つの物語　part 2

（前回からの続き）

　また神の声が臨んだ。「そこを出て、山の中で主の前に立て。」　エリヤが洞穴の入り口付近まで戻ると、激しい風が辺りに巻き起こった。その風は山を裂き、岩をも砕いた。驚いてエリヤが風の吹き荒れた場所を見やったが、そこには神の姿は無かった。風が収まると、今度は地震が起きた。地が揺れ、エリヤは思わずかがんだ。その次には火が起こった。そしてその後は、静かにささやく声が聞こえた。

　恐る恐る、エリヤは外とうで顔を覆い洞穴から出て、洞穴の入り口の前に立った。その時、声はエリヤに告げた。「エリヤよ、ここで何をしているのか。」　エリヤは、先ほどの答えを繰り返した。「私は万軍の神、主に情熱を傾けて仕えてきました。ところが、イスラエルの人々はあなたとの契約を捨て、祭壇を破壊し、預言者たちを剣にかけて殺したのです。私一人だけが残り、彼らはこの私の命をも奪おうと狙っています。」

　神はエリヤに言った。「行け。あなたの来た道を引き返し、ダマスコの荒れ野に向かえ。そこに着いたなら、ハザエルに油を注いで彼をアラムの王とせよ。」

　当時、ダマスコにいたアラム人の王は、ベン・ハダドである。ベン・ハダドは(2012- 3-31)　アサとバシャの戦いでも触れたが、南ユダ国の王アサの要請に応じて北イスラエル王国に圧力をかけた王である（ただし、当時から何十年も経過しているため、２世の可能性がある）。神はエリヤに対して、北イスラエルにとっては外国であるアラムの王をベン・ハダドからハザエルに交替するよう命じているのであった。

　続けて神は言った。「ニムシの子イエフにも油を注いで王とせよ。」　イエフはやがて、北イスラエルの王アハブの孫に対して反乱を起こすことになる者である。神はエリヤに対して、ダマスコの王も交替させ、北イスラエルの王も交替させるよう命じているのであった。

　神の真意をはかりかねているエリヤに、神は続けて言った。「また、アベル・メホラにいるシャファトの子エリシャにも油を注ぎ、あなたに代わる預言者とせよ。ハザエルの剣を逃れた者をイエフが殺し、イエフの剣を逃れた者をエリシャが殺すであろう。しかし、私はイスラエルに七千人を残す。これは皆、バアルにひざまずかず、これに口づけをしなかった者である。」

　エリシャは、やがてエリヤの弟子となる預言者である。どうやら神は、北イスラエル王国で自分を捨て、バアル神への信仰に走った民への懲罰を考えているようだった。北イスラエルの人々を懲らしめるために、ダマスコではハザエルに油を注いで王とし、北イスラエルではイエフに油を注いで王とせよ、と命じているのである。そうすれば、ハザエルが攻めてきて北イスラエルの人々を殺し、ついで北イスラエルの王イエフもまた自国である北イスラエルの人々を圧迫し、さらには預言者エリシャが残った北イスラエル国民を淘汰し、最後にはイスラエル神への信仰を捨てなかった七千人が残る、と神は言うのであった。

（次回に続く）

参考地図1-7-6：預言者エリヤ　もう一つの物語

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