イスラムの歴史 (2010-6-24)

(2010-6-28)　サウル、ダビデを追う　part 4

（前回からの続き）

　その頃、ダビデとその手下は砂漠の南方、マオンの荒れ野にいた。やがてダビデがマオンにいることを知ったサウルは、「必ず捕らえて殺してやる。」と言うと、全軍に命じてマオンに向かった。

　一方のダビデは、サウルとその軍が自分たちを捕らえるために向かってきていることを知ると、荒れ野の中の岩場に入った。しかしそれもすぐにサウルの知るところとなり、サウルは全力を挙げてダビデ一行を追った。

　一方は追い、一方は逃げ、そうして岩場の中でサウルの軍はダビデの一団の後尾を補足し始めた。

　「あそこにいるのが、ダビデの一味と思われます。」　サウルは全力でダビデを追った。

　必死なのはダビデの側も同じだった。彼我の兵力差からして、追いつかれては勝ち目はない。懸命に逃げた。サウルは言った。「包み込むように追いつめろ。絶対に逃がすな！」

　そうして追跡劇が続いて、もう少しでサウルがダビデに追いつこうというそのときに、サウルに一報がもたらされた。

　「急いでお戻りください。ペリシテ人が国に侵入しました。」

　あと少しでダビデを捕らえられるというところでのその報せに、サウルは歯がみをし、ダビデのいる方向をにらみつけ続けた。追い続けようか、とも考えた。あと少しなのだ。だが、外敵との戦いを繰り返してきたサウルは、戦争にはスピードが重要であることも十分に知っていた。ダビデを追うことにこだわるあまり、ペリシテ人との戦いで不利を強いられるのは本末転倒である。いかに権力者として末期症状に陥っているサウルでも、自国を外敵に滅ぼされることの危険は充分に認識していた。

　「戻るぞ。」

　吐き捨てるようにサウルは言い、続けて言った。

　「ペリシテ人を撃退するのだ。ダビデを捕らえるのは、その後だ。」

　悔しいことには違いなかったが、サウルは軍を率いて戻っていった。この出来事により、サウルが引き返したその場所は「分かれの岩」と呼ばれるようになったという（位置不詳）。

（サムエル記上第２３章より）

参考地図1-6-9：サウル、ダビデを追う

前の記事　　　次の記事