イスラムの歴史 (2010-6-14)

(2010-6-14)　虐殺　part 3

（前回からの続き）

　祭司アヒメレクは答えた。

　「あなたの家臣の中に、ダビデほど忠実な者がいるでしょうか。ダビデは王様の婿、近衛の長、あなたの家で重んじられている者ではありませんか。彼のために神に託宣を求めたのは、別にあのときが最初というわけではありません。王様、しもべと父の家の者に罪を着せないでください。しもべは事の大小を問わず、何も知らなかったのです。」

　だが、祭司アヒメレクの弁明は、すでに狂気の域に達していた王サウルを全く納得させなかった。サウルは叫んだ。

　「アヒメレクよ、お前も、お前の父の家の者も皆、死罪だ。」

　露骨に王に逆らうわけにも行かないため、声こそ上がらなかったものの、思わず家臣たちは顔を見合わせた。続けてサウルは近衛兵に命じた。

　「行って主の祭司たちを殺せ。彼らもダビデに味方し、彼が逃亡中なのを知りながら、私の耳に入れなかったのだ。」

　ここまでくれば、もはや権力者として末期症状である。だが、さすがに祭司を殺す勇気のある者はいなかった。あとで天罰が下ることを恐れたのである。誰も動こうとしないことに業を煮やしたサウルは、先ほどのエドム人ドエグに命じた。

　ドエグは手下の者を率い、サウルのもとに来ていたアヒメレクとその一族８５人の祭司を殺したばかりでなく、ノブに直行して男も女も、子供も乳飲み子も、牛やロバ・羊にいたるまで皆殺しにした。

　混乱の中、アヒメレクの息子アビアタルだけが、一人難を逃れた。彼はこの凶行が王サウルの命令であることを知ると、エフォドを携え、怒りに震えてダビデのもとへ逃れた。その頃、ダビデはケイラという町にいた。アビアタルはケイラにいるダビデに会うと、この件をつぶさにダビデに伝えた。ダビデはアビアタルを慰めて言った。

　「あの日、エドム人ドエグの存在に気付いてはいたが、まさかこうなるとは・・・。私があなたの父上の家の者すべての命を奪わせてしまったも同然だ。これからは、私のもとに留まっていなさい。私の命を狙う者は、これからはあなたの命も狙うであろう。私のもとにいれば、あなたは安全だ。」

　こうして、アビアタルはダビデのもとに参画した。ダビデにすれば、自分のグループに宗教家が加わったことにもなる。

（サムエル記上第２２章より）

参考地図1-6-8：虐殺

前の記事　　　次の記事