イスラムの歴史 (2007-10-29)

(2007-10-29)　ヨセフ　part 4

（前回からの続き）

　さて、今度はＪ文書版の物語を紹介しよう。

Ｊ文書版の物語

　ヨセフがやって来ると、兄たちは、来ていた例の晴れ着をはぎ取って今にも殺さんばかりだった。

　その騒ぎの最中、ユダが目を上げると、遠くにイシュマエル人の隊商がやって来るのが見えた。ギレアドの方からエジプトを目指しているようであった。

　ユダは兄弟たちに言った。「弟を殺しても、何の得にもならないじゃないか。それよりも、あのイシュマエル人に売ろう。さすがに肉親を殺すのはまずい。」　兄弟たちは、この意見を聞き入れた。それで、ヨセフはイシュマエル人に売り払われ、その隊商はヨセフをエジプトに連れて行ってしまった。

　「さて、それはいいとして、父にはヨセフのことをなんと報告しようか」

　兄たちは相談して、ヨセフが死んだと偽装することにした。はぎ取ったヨセフの晴れ着に雄山羊の血を浸し、それを後日、父ヤコブに見せた。「こんなものを見つけましたが、どうもヨセフの服のような気がするのですが・・・父さん自身、確かめてくれませんか。」

　ヤコブがその着物を見ると、まぎれもなくヨセフに贈った着物だった。ヤコブはうめいた。

「何ということだ・・・ヨセフは野獣に食い殺されてしまったのか！！」

　その後のヤコブの嘆く様は尋常ではなかった。何日も何日も嘆き悲しんだ。子どもたちが入れ替わり立ち替わり慰めにやって来ても、頑として言った。「ヨセフが死んだ今、私は嘆きながらあの子のいる隠府へと下って行こう。」

　父親の嘆く様子を見て、息子たちは真実を言うことがもはやできなくなってしまった。本当は死んだわけではないが、兄弟はヨセフを隊商に売り払ってしまい、もはや行方不明同然である。そんなことを言ったところで、父親にとって何の慰めとなろうはずもない。結局、家族にとってはヨセフは死んだも同然となってしまった。

（創世記第３７章より）

（Ｊ文書、Ｅ文書については(2007- 6- 4)　聖書の成り立ち　part 4を参照のこと。）

（ギレアド山地の位置については(2007- 8-31)　ヤコブ　（ハラン脱出編）　part 2の地図を参照のこと。）