イスラムの歴史 (2021-08-28)

(2021-8-28)　ペルシア戦争　決戦　プラタイア　part 5

（前回からの続き）

　ついにはマルドニオス率いる親衛隊も戦闘に参加した。精鋭を選りすぐった親衛隊１０００人を率い、彼らも善く戦ったが、そのうちにマルドニオスが戦死してしまう。総司令官を失ったペルシア軍は退却を開始。先に築いていた野営地へ逃げ込んだ。(2021- 7- 3)　外交の季節　part 1で書いたとおり、レオニダスの死に対して「マルドニオスが、相応の対価を与える」結果となったのである。

　ペルシア軍にとってはさらに不利なことには、マルドニオスの戦死を受け、この決戦に批判的だったペルシア軍の武将アルタバゾスが配下４万人の軍勢を連れて、戦場を離脱してしまったのである。彼らは野営地への撤収ではなく、さらに遠く、ポキス地方を目指して去っていってしまった。

　参考地図1-10-22：決戦　プラタイア

　（画像をクリックすると拡大できます）

　
　結局は諸民族の部隊の寄せ集めであったことが、ここに来てさらにペルシア軍に不利に働く。中核の、純粋なペルシア人部隊が敗走すると、これら諸民族の部隊は戦わずに逃走を始めた。彼らにとっては命を賭けて戦う理由はなかったのである。ペルシア軍が総崩れの様相を呈する中、ペルシア側に参加していたギリシア軍のうち、ボイオティアの騎兵隊は踏みとどまって各方面でギリシア軍を食い止め、味方が無事に敗走できるように支援し続けた。

　戦闘は野戦から、野営地の包囲戦へと移っていった。野営地に逃げ込んだペルシア軍を、スパルタ軍・テゲア軍が包囲した。ギリシア軍はなかなか野営地を攻略できずにいたが、戦闘から解放されたアテネ軍が応援に到着。なおも包囲戦は長時間にわたって継続したが、城塞ではなく所詮は急ごしらえの野営地である。ペルシア軍が、いつまでも防ぎきれるものではなかった。

　やがて、アテネ軍の一部が壁をよじ登り、一部の防壁の破壊に成功。ここからギリシア軍が突入し始めると、逃げ場のないペルシア軍は恐慌を来し始めた。ついにはギリシア軍側が一方的にペルシア軍を殺戮するような状態になり、ペルシア軍は壊滅。ここにプラタイアの戦いは決着した。

　ヘロドトスの『歴史』には、伝承としてこんなエピソードも紹介している。戦争に勝利したパウサニアスは、ペルシア軍本陣に残されていたマルドニオスの調度品が豪奢であったのを見ると、捕らえたペルシアの職人たちに、マルドニオスの普段の料理を用意させた。贅沢なソファ、金銀で飾られたテーブル、並べられた山海の珍味。あまりの豪華ぶりにあきれ、戯れに自分の下僕に命じて普段の自分の食事をつくらせ、２つの食事を並べると、その差が激しいので笑い出し、指揮官たちを集めた。指揮官が到着すると、パウサニアスは言った。「ギリシア人諸君、そなたたちに集まってもらったのは外でもない。このような生活をしながらこれほど乏しい暮らしをしている我々から物を奪おうとしてやってきた、あのペルシアの指揮官の愚かさを、そなたたちの目の前に示したかったのだ。」

（『歴史　（下）』（ヘロドトス）p.289（第9巻第82節））

　マルドニオスの遺体をさらせ、という提言もあったが、パウサニアスはそれを退けた。ただ、遺体はいつのまにか消失し、その行方はわからなくなってしまった。マルドニオスを葬ったと主張する人間が何人もいることをヘロドトスは紹介している。

　４万人の兵を率いて離脱したアルタバゾスは、食糧不足に苦しみながらもヘレスポントス海峡を船で渡り、アジアへ無事、帰還した。こうしてペルシア戦争はついに終結するのである。

（主な参考文献）

『歴史　（下）』
『ギリシア』
『古代ギリシア人の戦争　会戦事典』

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