イスラムの歴史 (2015-5-2)

(2015-5-2)　粛清　part 1

　イゼベル、ヨラムの親子を葬ったイエフだったが、まだ旧政権の種が残っていた。北イスラエルの先王アハブの子ども７０人（ヨラムの兄弟にあたる）がサマリアにいたのである。聖書には「アハブの子供が７０人サマリアにいた」とあるが、アハブの親族７０人と解するか、もしくは誇張を含んでいると考えた方がいいかもしれない。

　イエフとって旧政権の親族が残っていることは、反乱の可能性を残すことでもあった。当然、何かしら対処しなければならない。イエフは狡猾だった。軍を動かす前に、彼は手紙を書いた。宛先はサマリアの指導者、長老たち、アハブの子供の養育者たちである。手紙の文面は、こうであった：

　「今この手紙が届いたら、あなたたちのもとにはあなたたちの主君の子供、それに戦車、軍馬、及び砦の町と武器があるのだから、その主君の子供の中から最も優れた正しい人物を選んで、父の王座につけて、あなたたちの主君の家のために戦え。」

　挑発である。しかし、イエフには勝算があった。サマリアに、自分に向かってくる気骨のある人間は居ないことを見透かしていたのである。案の定、イエフの手紙にサマリアの有力者たちは震え上がった。「二人の王（注：北イスラエル王ヨラム及びユダ国の王アハズヤ）でさえ彼に立ち向かえなかったのに、どうして我々が立ち向かうことができよう。」

　そうして相談の結果、彼らはイエフに命乞いの手紙を送ることにした。彼らは手紙で、こう述べた。「私たちはあなたのしもべです。あなたがお命じになることは何でもいたします。私たちには誰も王として立てるつもりがありません。あなたの目に良いと映ることをなさってください。」

　彼らの使者が持ってきた手紙を読んだイエフは、すかさず第二の外交の矢を放つことにした。イエフはサマリアの有力者たちに手紙を書いた。「もしあなたたちが私の味方をし、私の命令に従うなら、あなたたちの主君の子供たちの首を取り、明日の今頃、イズレエルにいる私のもとに持ってきなさい。」

　有力者たちはイエフの子どもたちに気づかれぬよう、場所を選んで密かに集まり、協議した。有力者の一人が、イエフの手紙を読み上げた。沈黙が場を覆う。誰もしばらく何も言わなかった。やがて、一人の男がつぶやいた。「彼らを・・・殺さなければならないのか？」　それに対してもう一人の男が言う。「もし、アハブの子どもたちを我々が殺さなければ、我々がイエフに殺される。」　「しかし、かわいそうではないか。」　「仕方があるまい。王権が交替するというのは、こういうことなのだ。」　その後も議論が続いたが、結局、彼らはイエフの言うことに従うことにした。もはや次の王がイエフになることは明白である今、他に選択肢は見あたらなかった。

　有力者たちは自分の家に戻ると、それぞれ、自分の家に住まわせていたアハブの子供たちを殺し、その首を集めた。これが、つい昨日までは王族の子として扱われていた者たちの最期であった。有力者たちはアハブの子どもたちの首を集めるとかごに入れ、イズレエルにいるイエフのもとに送った。

（次回に続く）

参考地図1-7-19：イエフの謀反～粛正

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