イスラムの歴史 (2011-1-10)

(2011-1-10)　アムノン、タマルとアブサロム　part 4

（前回からの続き）

　王子一行はアブサロムとともに、バアル・ハツォルに出かけ、羊の毛の刈り取りを見学した後、宴となった。宴に先立ち、アブサロムは密かに自分の腹心の従者たちを集めた。この２年間、ひたすらにアムノンへの復讐だけを誓い、アブサロムは準備してきた。今日こそ、決行の日なのである。アブサロムは自分の心臓の鼓動が早くなるのを感じつつ、表面上は努めて冷静に部下に命じた。

　「いいか。アムノンが酒に酔って上機嫌になったとき、私がアムノンを討てと命じたら、アムノンを殺せ。恐れるな。これは私が命令するのだ。勇気を持て。勇敢な者となるのだ。」

　アブサロムに心服していた部下たちも、さすがに戸惑ったが、部下たちもアムノンとタマルの一件は密かに伝え聞いていたので　－　さすがにアブサロム本人にそれを面と向かって言う者はいなかったが　－　アブサロムの命令の背景は十分に理解できた。だが、王族を殺すのである。今日の表現で言うなら、テロ以外の何物でもなかった。アブサロムの命令を実行すれば、捕らえられて処刑されることを覚悟しなければならない。だがアブサロムは部下を掌握していたのであろう。結局、命令は実行された。

　王子たちが一堂に会して宴を楽しんでいたその最中、アムノンが十分に酔ったのを確認すると、アブサロムは部下たちに合図を出した。アブサロムの部下たちは何気なくアムノンに寄ると、一気に襲いかかり、そうしてアムノンを殺した。

　驚いた他の王子たちは全員、立ってそれぞれのらばに乗って逃げ出した。凶行を目の当たりにしたある者は、アブサロムが他の王子全員を殺すつもりで今日の宴をたくらんだものと早合点し、王ダビデに知らせなければならないと考えてらばでエルサレムに向かって急いだ。そうしてこの者が他の王子たちよりも先にエルサレムに到着し、この誤報をダビデに届けた。

　エルサレムの王宮は混乱した。誤報が誤報を呼んで、ついにはアブサロムが他の王子全員を打ち殺したという情報がダビデのところに届いた。王は立ち上がると衣を裂き、地面に身を投げ出した。家臣たちも皆、衣を裂いて傍らに立った。

　ダビデの甥ヨナダブが断言した。

　「主君よ、若い王子たちが皆殺しになったとお考えになりませんように。殺されたのはアムノン一人です。アブサロムは、妹タマルが辱めを受けたあの日以来、これを決めていたのです。主君、王よ、王子全員が殺害されたなどという言葉を心に留めることはありません。亡くなったのはアムノン一人です。」

　見張りの者が目を上げて眺めると、大勢の人が山腹のホロナイムの道（位置不詳）をやってくるのが見えた。ヨナダブは王に言った。

　「ご覧ください。しもべが申し上げたとおり、王子たちが帰ってこられました。」

　ヨナダブがこう言い終えたとき、王子たちが到着した。彼らは声を上げて泣き、王も家臣も皆、激しく泣いた。

（次回に続く）

参考地図1-6-20：アムノン、タマルとアブサロム

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