イスラムの歴史 (2010-9-20)

(2010-9-20)　ギルボア山での戦闘／サウルの最期

　サウルの話に戻る。

　ギルボア山付近でにらみ合っていたペリシテ軍とイスラエル軍は、ある日、ついに戦争を開始した。サムエルに死を予言されたサウルの心は暗く、その影響もあってか、イスラエル軍の士気はどこか振るわなかった。

　もともと数に勝るペリシテ軍は戦いを優勢に進め、イスラエル軍は敗走し始めた。たまらずサウルも部下を引き連れて逃げ始めたが、ペリシテ軍は多くのイスラエル兵を殺した。敗走する中、サウルの息子たちも討たれた。アビナタブやマルキ・シュアの他に、ヨナタンまでもが戦死してしまった。

　息子たちの戦死を伝えられてサウルは衝撃を受けながらも逃走を続けたが、やがてペリシテ軍のある部隊がサウルを見つけ、一斉に矢を放った。そのうちの数本がサウルに刺さり、サウルは深手を負った。部下たちはなおもサウルをかばい、なんとかその場はしのいだが、サウルはもう自分が長くはないことを悟った。そうして傍らにいる自分にもっとも忠実な兵士に言った。

　「お前のその剣を抜き、私を刺し殺してくれ。あの無割礼の者どもに襲われて刺し殺され、なぶりものにされたくはない。」

　その兵士は激しく頭を振って言った。

　「そんなことはできません、王様。気をしっかり持ってください。」

　だが、サウルの決意と絶望は固かった。「私はもう、主に見放されたのだ。これ以上生きていけるとは思えない。」

　そう言うとサウルは剣を取り、その上に倒れて自らを貫いた。

　先ほどの兵士はどうすることもできず、ただ震えて涙を流しながらサウルを見守った。だが、もう１人いたアマレク人を親に持つ兵士は、サウルにとどめを刺した。この状況下では、やむを得ないと考えてのことである。

　サウルが息絶えると、とどめをさすことを拒否した先ほどの兵士は、自らを剣で貫き、果てた。後半は政治的に末期症状のようだった王でも、後を追う者がいたのである。

　一方、サウルにとどめを刺したアマレク人の兵士は、サウルの王冠と腕輪を取ると戦場を脱出した。サウルもその息子たちも死んでしまった今、次にイスラエルを治める者は誰か。彼なりに頭を働かせた。次の王となるべき者に、サウルの死を伝えなければならない。彼は南を目指して先を急いだ。

　また、イスラエル軍が敗走したことを伝え聞いたイスラエルの住民は先を争って避難し、そしてペリシテ軍が町々に駐留した。

　翌日。戦死者の遺留品をはぎとろうとペリシテ軍の部隊は戦場を回ったが、やがてその兵の一部がサウルとその３人の息子の遺体を見つけた。ペリシテ軍は大喜びし、サウルの首を切り落としてその武具を奪い、ペリシテ全土に戦勝の報せの使いを送った。彼らはサウルの武具をアシュトレト神殿に納め、サウルと３人の息子の遺体をベト・シャンの城壁にさらした。

　ヤベシュの住民は、その話を伝え聞いた。戦士たちは夜通し歩いてベト・シャンに向かって歩き、城壁にさらされたサウル王とその息子たちの遺体を見た。イスラエルの掟では、死刑に処せられて木にかけられた遺体も、日没と共に埋めることとされていた（申命記第２１章２２節。(2008-10-13)　アイの滅亡　part 2なども参照）。

　「むごいことを。」　怒りに震えながら彼らはサウルとその息子たちの遺体を城壁からおろしてヤベシュに持ち帰った。そうしてヤベシュで亡骸を火葬に付し、ぎょりゅうの木の下に葬ってから７日間、断食をした。

（サムエル記上第３１章より）

参考地図1-6-13：サウル王の最期

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