イスラムの歴史 (2007-9-7)

(2007-9-7)　ヤコブ　（ハラン脱出編）　part 5

（前回からの続き）

　天幕の中に、二人の男がいた。

　怒りに身を燃やしたラバンが、椅子に座っていた。

　招き入れたヤコブは、ゆっくりと天幕の中を歩いていた。座れば、ラバンが怒鳴り始めることが分かり切っていたので、そうするより他になかったのだ。

　二人とも、何も話さなかった。天幕の外では、お互いのグループの人間が首脳（？）会談の行方を見守っていた。ラバンはヤコブを殺すのだろうか？　それとも？

　「私は」　天幕の中、ついにラバンが口を開いた。「私は、お前を殺すつもりでやって来た。」　そう言って、ラバンは息を吐いた。ヤコブは黙って聞いていたが、その言葉に血が凍った。ヤコブの腰にも一応、短剣がある。私は、この剣を抜くことになるのだろうか？

　しかし、ラバンが続けた。「だが、昨夜、私は夢を見た。神が私のもとに現れて言った。『ヤコブを一切非難してはならない』と。よかろう、私はお前を非難しないことにする。」

　ヤコブは黙って聞き続けた。

　ラバンは続けた。「だが、言わせてほしい。なぜ、黙って出て行ったのだ？　一言いってくれれば、歌い、踊って見送ったものを。私の娘や孫に口づけする機会すら与えてくれないとは、いったいどういうことか。まぁ、それもいい。だが、一番言いたいことがある。なぜ、私の守り神の像を盗んでいったのか。」

　ここで私は読者に補足しておかなければならないことがある。(2007- 8-31)　ヤコブ　（ハラン脱出編）　part 2で、ラケルが父親の守り神の像を盗んだことを書いたが、これはラケルの独断で、ヤコブはこのことを全く知らなかった。

　当然、ヤコブは反発した。「何のことです？　私はあなたの守り神の像なんて盗んでいません。疑わしいのならば、全ての天幕を洗いざらい調べてもらっていいですよ。もし万が一、像が見つかったら、盗んだ者を生かしてはおきません。」

　そこで、ラバンはヤコブのところの天幕を調べ始めた。

（次回に続く）