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ニネヴェ陥落の年代記　（ABC3）

（翻訳：2019-12-15）

概要

　ニネヴェ陥落の年代記（ABC3）は、古代バビロニアの史料文書の１つである。この文書には、古代史の中で最も衝撃的な出来事の１つである、ナボポラッサルによるアッシリアの首都ニネヴェの占領について記されている。この年代記は、ナボポラッサルの治世前半の年代記（ABC2）に始まり、ニネヴェの陥落（ABC3）とナボポラッサルの治世後半の年代記（ABC4）へと続く、一連の長い文書の一部に当たる。

解説

　アッシュールバニパルが紀元前631年に死んだ後、アッシリア帝国は不安定化し、バビロニア人が独立を達成した。１年間（紀元前627／626年）、シン・シュム・リシル（Sin-šumlišir）とシン・シャル・イシュクン（Sin-šar-iškun）という名のアッシリア人の官僚がユーフラテスにある古代の街を支配した。翌年、シン・シャル・イシュクンによって任命されたバビロニアの将軍ナブー・アプラ・ウサル（Nabû-apla-usur）が寝返り（訳者による補足）、バビロン近郊における戦いで、アッシリア軍を破った。ABC2として知られるバビロニア年代記には、

サムヌの月の第26日に、ナブー・アプラ・ウサルがバビロンの王座に就いた。これが、ナブー・アプラ・ウサルの治世の始まりである。

と記されている。ナブー・アプラ・ウサルは、むしろギリシア語による名前である「ナボポラッサル」の方が有名であろう。バビロニア帝国は、彼の即位により始まり、紀元前539年10月にペルシア帝国のキュロス大王がその首都を奪うまで続いた。

　バビロニアを解放したものの、ナボポラッサルはアッシリアと戦い続けた。世の中の人々は、アッシリアの中心部を破壊するまでは、彼は諦めないであろうことを知っていた。アッシリアの中心部、すなわち宗教の中心であるアッシュールと、行政の中心であるニネヴェである。もし、ナボポラッサルの企てが成功すれば、近東世界のパワーバランスは深刻な危機にさらされることになる。このように考え、必然的に、エジプトはアッシリアを支援し、侵略者に対抗し始めた。

　ニネヴェ陥落の年代記では、これらの出来事を知ることができる。紀元前616年7月25日、ナボポラッサルは、アッシリア軍をハランの南、ユーフラテス河畔の戦いで破った。これは、ナボポラッサルが、アッシリア中心部と西部領域をつなぐ、主要な道路を封鎖する意図があったことを示唆している。しかし、（プサムテク１世の？）エジプト軍が接近すると、ナボポラッサルは撤退を余儀なくされた。だが、その年が無駄に終わったわけではない。なぜなら、バビロニア軍ははるか東、キルクーク付近でアッシリア軍を破ったからである。バビロニア軍とアッシリア軍の戦争は、機動的なものとなってきていた。

　翌年、バビロニア軍はアッシリアの中心部に入り、アッシュールの包囲を始めた。アッシリア軍は敵を撃退することに成功し、年代記も、バビロニア軍が一時期、難しい状況にあったことを隠さない。紀元前615年の終わり頃、現代のイラン国内にあった部族連合国メディアは、二国間の戦争に割って入ってきた。漁夫の利の誘惑には抗しがたかったに違いない。ニネヴェ陥落の年代記では、メディアが、現在のキルクーク付近で軍事行動を取ったことが記されている。あるいは、街を占領していたかもわからない。

　紀元前614年、メディアは、前年にバビロニア軍が攻略に失敗した場所を引き継いだ。アッシュールを陥落させたのである。ナボポラッサルが到着した頃には戦いは終わっていたが、彼はどうにかしてメディアの王ハヴァフシュトラ（キュアクサレスというギリシア語による名の方が有名であろう）と条約を結んだ。バビロニアの歴史家ベロッソス（紀元前３世紀）によれば、両国の同盟は王家の婚姻により強化された。バビロニアの皇太子ナブー・クドゥル・ウスル（ネブカドネザルという名で知られる）がキュアクサレスの子、アステュアゲスの娘アミュティスと結婚した。もっとも、これはあり得ない（この時点では、アステュアゲスの年齢は、子どもを持つには低すぎる）。あるいは、アミュティスはキュアクサレス自身の娘だったかもしれない。

　翌年（紀元前613年）は軍事行動で決定打を出せないまま終わったが、紀元前612年5月、メディアとバビロニアの連合軍は、アッシリアの行政の中心地であるニネヴェを封鎖した。３か月に及ぶ包囲の後、７月に都市は陥落した（考古学者が、約40人分の守備隊兵士とおぼしき遺骨を発見したことは注目に値するかもしれない）。かつてバビロンを統治していたシン・シャル・イシュクン王は、自決したと言われている。街の略奪は8月10日まで続き、メディア軍はついに帰国した。

　ニネヴェ陥落の知らせは、古代世界を揺るがせた。ユダヤ人の予言者ナホムは、メディア軍が、かつて近東地域を支配した街へ進軍する様子を描写した。

襲いかかる敵がお前に向かって上ってくる。・・・・・・

勇士の盾は赤く
戦士は緋色の服をまとう。
戦の備えをする日に
戦車の鋼鉄は火のように輝き
槍は揺れる。
戦車は通りを狂い走り、広場を突き進む。
その様は松明のように輝き
稲妻のように走る。
将軍たちは召集されるが、途上でつまずく。
人々は城壁へと急ぎ、防御車を据える。
流れに面した門は開かれ、宮殿は揺れ動く。

（ナホム書２：２〜２：７）

　歴史ある街が破壊された知らせは、はるか遠くギリシアまで伝えられた。詩人フォキュリデスは、教訓を認めてこう記している。

高所に秩序正しく治まる小ポリスは、愚かなニネヴェに勝る。

　だが、アッシリアの２つの首都の終わりは、戦争の終結を意味しなかった。アッシュル・ウバリト２世という名の新たな王が、ハランに王国を打ち立てたのである。だが、所詮、彼はナボポラッサルの敵ではなく、ニネヴェ陥落の年代記によれば、治世第15〜16年（紀元前612〜609年）、ナボポラッサルは「勝ち誇ってアッシリアに行軍した」。アッシュル・ウバリト王は、ハランからの退却を余儀なくされた。

　彼はエジプトを説得したようである。彼の望み薄な目的をもう一度支援するため、ネコ２世（治世紀元前610〜595年）率いる大軍が北上した。ユダ国の王ヨシヤは、かつてのイスラエル王国の領土回復を目指しており、侵入者に対抗しようとした。列王記下には、以下のように記されている。

彼の治世に、エジプトの王ファラオ・ネコが、アッシリアの王に向かってユーフラテス川を目指して上って来た。ヨシヤ王はこれを迎え撃とうとして出て行ったが、ネコは彼に出会うと、メギドで彼を殺した。ヨシヤの家臣たちは戦死した王を戦車に乗せ、メギドからエルサレムに運び、彼の墓に葬った。

（列王記下２３：２９〜２３：３０）

　６月、ネコの軍隊は、アッシュール・ウバリト２世のためにハランの再占領を試みた。勝利まであと一歩のところまできたかもしれないが、紀元前609年8月、彼らはハランの包囲を解かなければならなかった。この出来事の後、アッシュール・ウバリトとアッシリアは、歴史史料から消える。その後も、シリアとパレスティナにおけるバビロニア軍とエジプト軍の戦いは続いた。この話は、ネブカドネザルの年代記（ABC5）で語られる。

年代記

　ABC3として知られる以下の年代記には、アッシリアの最後の時期について記されている。文書は、中くらいの大きさの粘土板BM21901（96-4-9、6）に記されている。粘土板の長さは132mm、幅は69mmである。かつては４片に割れていた。断片はつなぎ合わされたが、表面にはいくつかのひびがあるほか、粘土板の中央には大きな欠落がある。

　このページにおける翻訳は、主にＡ・Ｋ・グレイソンの『アッシリアとバビロニアの年代記』（"Assyrian and Babylonian Chronicles", A.K.Grayson）(1975年)によったほか、一部はジェーン・ジャックス・グラスナーの『メソポタミアの年代記』（1993年）（"Mesopotamian Chronicles", Jean-Jacques Glassner）による。年代記の学術的な分類に関するごく簡単な解説については、こちらを参照していただきたい。

本文

（　[ ] 内及び（）内は補足、[……] は判読不能を示す。）

　ナボポラッサルの治世第10年（紀元前616/615年）。アジャルの月、ナボポラッサルはアッカドの軍を召集し、ユーフラテス川沿いに行進した。SuheanとHindaneanの人々（注：ハランの南に住んでいた人々）はナボポラッサルに抵抗して戦うことはせず、貢ぎ物を差し出した。

　アブの月、アッシリア軍はGabliniで戦いの準備をし、ナボポラッサルは戦いを仕掛けた。アブの月の第12日（紀元前616年7月4日）、ナボポラッサルはアッシリア軍と戦い、アッシリア軍は撤退した。彼はアッシリア軍に大勝し、多くの兵を殺した。彼は、アッシリアの援軍として来ていたマンナエ人を捕らえた。彼らはアッシリアの将校でもあった。同じ日、王はGabliniを占領した。

　アブの月、アッカドの王（ナボポラッサル）とその軍は上流のMane、SahiriとBali-huへ向かった。王は彼ら（街の住民？）を殺し、大規模に略奪し、その守護神像を没収した。ウルルの月、アッカドの王とその軍は帰路に就き、その途中、Hindaruの人々とその神をバビロンへと連れて帰った。

　タスリトゥの月、エジプト軍とアッシリア軍がアッカドの王を追ってGabliniまではるばる来たが、バビロニアの王に追いつくことができなかった。このため、彼らは去って行った。

　アダルの月、アッシリア軍とアッカドの軍はアラファ近郊のマダヌで戦い、アッシリア軍が敗れ、撤退した。バビロニア軍はアッシリア軍に大勝し、アッシリア軍をザブ川まで押し戻した。バビロニア軍はアッシリア軍の戦車や馬を没収し、その兵を多数、殺した。彼らは多くの [ 欠損 ] を奪い、ティグリス川を渡ってバビロンへと運んだ。

　治世第11年（紀元前615/614年）。アッカドの王は軍を召集し、ティグリス川沿いに行軍し、アジャルの月、アッシュールに対して野営した。シマヌの月の [ 欠損 ] の日、王は街に戦いを挑んだが、占領することはできなかった。アッシリアの王は軍を召集し、アッカドの王をアッシュールの前から追い払うと、ティグリス川沿いのTakrita'inまで追ってきた。アッカドの王は、軍をTakrita'inの砦に立てこもらせた。アッシリアの王と軍は、立てこもるアッカドの王に対して野営し、10日間にわたって戦いを挑んできた。だが、アッシリアの王は街を占領することができなかった。逆に、アッカドの王は、砦に立てこもっていたアッシリア軍を大敗させた。アッシリアの王と軍は、帰って行った。

　サムナの月、メディア軍がアラファと [ 欠損 ] に下っていった。

　治世第12年（紀元前614/613年）。アブの月、メディア軍はニネヴェと戦った後 [ 欠損 ] 、急行し、ニネヴェの地域にある街、タルビスを占領した。メディア軍はティグリス川沿いに行軍し、アッシュールに対して野営した。メディア軍は街と戦い、これを破壊した。多数の軍を打ち破ると、メディア軍は彼らを殺し、略奪した。アッカドの王とその軍はメディア軍を支援するために行ったが、戦いには間に合わなかった。街は既に陥落していた。アッカドの王とキュアクサレスは街のそばで会い、友好協定を結んだ。その後、キュアクサレスとその軍は帰っていった。アッカドの王とその軍も帰った。

　治世第13年（紀元前613/612年）。アジャルの月、Suheanの人々がアッカドの王に反逆し、交戦状態になった。アッカドの王は軍を召集し、スフ（Suhu）へと行軍した。シマヌの月の第4日（紀元前613年5月11日）、王はRahi-iluと戦った。その街はユーフラテス川の中の島にあり、王は街を占領した。彼は、彼の [ 欠損 ] を建設した。ユーフラテス川の岸に住む人々が、王のもとへと下ってきた。 [ 欠損 ] 彼はアナティ（Anati）に対して野営し、彼が西部から運んできた攻城兵器 [ 欠損 ] 彼は城壁に対し、攻城兵器を運んできた。彼は街に戦いを仕掛け、占領した。アッシリアの王とその軍は落ち延び、アッカドの王とその軍は帰還した。

　治世第14年（紀元前612/611年）。アッカドの王は軍を召集し、アッシリアへと行軍した。メディアの王はアッカドの王に向かって行軍し、彼らは [……] ウで会った。アッカドの王とその軍はティグリス川を渡った。キュアクサレスはラダヌ（Radanu　川？）を渡る必要があり、ティグリス川沿いに行軍した。シマヌの月の第Ｎ日、彼らはニネヴェに対して野営した。

　シマヌの月からアブの月まで　− ３か月間 −　彼らは街に対し、厳重な包囲を敷いた。アブの月の第Ｎ日、両軍はニネヴェの人々を大敗させた。このとき、アッシリア王のシン・シャル・イシュクンは死んだ。彼らは街や寺院から大量の戦利品を奪い去り、街をがれきの山に変えた。アッシリアの [ 欠損 ] は敵から逃げ、身の安全を図るため、アッカド王の足を奪った。

　ウルルの月の第21日（紀元前612年9月14日）、キュアクサレスとその軍は帰国した。キュアクサレスが去った後、アッカドの王はその軍をナシビア（Nasibia。ヌサイビンに同じ）に急行させた。略奪と追放 [ 欠損 ] ルサプ（Rusapu）の人々を、ニネヴェにいたアッカドの王のもとへ連れていった。 [ 欠損 ] の月の [ 欠損 ] （の日）、アッシュール・ウバリトはハランでアッシリアの王位に就いた。 [ 欠損 ] の月の [ 欠損 ] の日までアッカドの王は [ 欠損 ] 並べた。

　治世第15年（紀元前611/610年）。ドゥーズの月、アッカドの王は軍を召集し、アッシリアへ向け、勝ち誇って行軍した。彼は約 [ 欠損 ] （の距離）を行軍し、シュ [ 欠損 ] 、それを略奪し、多くの略奪品を運び去った。

　サムナの月、アッカドの王は自ら軍の先頭に立ち、Ruggulituに向かって行軍した。王は街と戦い、サムヌの月の第28日、そこを占領した。彼は一人として生かしておかなかった。 [ 欠損 ] 彼は帰国した。

　治世第16年（紀元前610/609年）。アジャルの月、アッカドの王は軍を召集し、アッシリアへと行軍した。シマヌの月からサムナの月に至るまで、勝ち誇ってアッシリア国内を行軍した。サムナの月、アッカドの王を支援するために来ていたメディア軍は、アッカド軍と合流すると、アッシュールウバリトを攻撃するためにハランへと行軍した。アッシュールウバリトは、アッシリア王位に就いていた。敵への恐怖心がアッシュールウバリトとその援軍であるエジプト軍の士気をくじき、彼らは街を放棄してユーフラテス川を渡った。アッカドの王はハランに到着し、戦闘を行い、これを占領した。彼は街と神殿から大量の戦利品を運び去った。アダルの月、アッカドの王は部隊と野営地を残して帰国した。アッカド王を支援するために来ていたメディア軍は、撤退した。

　治世第17年（紀元前609/608年）。ドゥーズの月、アッシリア王のアッシュール・ウバリトはエジプトの大軍とともにユーフラテス川を渡り、ハランを征服するために行軍してきた。彼らは [ 欠損 ] を占領した。彼らはアッカド王が立てこもる砦を打ち負かした。砦を打ち負かした時、彼らはハランに対して野営していた。ウルルの月まで彼らは街を攻撃したが、その試みは失敗に終わった。アッカドの王は彼の軍を支援するために行ったが、戦闘には加わらなかった。彼は、山の中にあるIzallaやその他の多くの街々へ上っていき [ 欠損 ] 彼らの [ 欠損 ] へ火を放った。

　そのとき、 [ 欠損 ] の軍がウラルトゥの地方まで行進した。その土地で [ 欠損 ] 彼らは [ 欠損 ] を殺した。 [ 欠損 ] の王が滞在していた守備隊が出発した。彼らは [ 欠損 ] へと上っていった。アッカドの王は帰国した。

　治世第18年（紀元前608/607年）。ウルルの月、アッカドの王は軍を召集し [ 欠損 ]  

　ナブー神とマルドゥク神を愛する者にこの粘土板を保管させ、そうでない者の手に渡ることがないように。

（以上、終了）

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