イスラムの歴史 (2019-12-28)

(2019-12-28)　雅歌　part 5

（前回からの続き）

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　旧約聖書の主な流れは言うまでもなく、宗教や倫理、民族や政治といった「大きな」物語である。しかしその中には、いわば平凡な人間のありきたりの喜びを歌い上げる雅歌が含まれている（「知恵文学」は全体として趣を同じくすると考えられる）。「大きな」物語は時として個人の喜びや悲しみを押しのけて「次元の高いもの」を優先させる力を持つが、旧約の中に雅歌が含まれることによって、そのような「優劣」「優先順位」が疑われる、あるいは、少なくとも無前提・無条件のものとは受け止められなくなる。

（中略）

　旧約の宗教的・民族的物語を読みその「大きな」物語に取り込まれる私たちは、時に雅歌によって、素朴な悲しみや喜びに注目するよう方向修正を迫られる。そのようないわば周縁からテキストの主流となっている物語を読むというのは、現代の神学が真剣に取り上げてきた方法であり、雅歌を読む意義もこの点で正に現代的なものと言えるだろう。

========================　引用終了　========================

　私なりに引用文を意訳するが、旧約聖書中の王様や祭司の話だけ追っても、それは世の中のごく一部。雅歌があることによって人々は民衆の素朴な感情に思いを馳せることができ、それにより、旧約聖書が描く世界も厚みを増すというものであろう。『旧約聖書略解』p.720によれば、雅歌のヘブライ語の書名は「シール・ハッシーリーム（歌の中の歌＝最も素晴らしい歌）」。その名に恥じぬ傑作と言えるのではないだろうか。

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