|
(2010-10-21) アブネル、暗殺される part 1 アブネルがヘブロンを発ったあと、略奪のために出撃していたヨアブが兵を従えて帰還した。ヨアブが到着すると、アブネルがダビデを訪ねてきていたが、平和のうちに出発したことを告げた者がいた。ヨアブは愕然とした。ヨアブにしてみればアブネルはヨアブの弟、アサエルの仇である（(2010-10- 7) イスラエルとユダの戦い part 2参照）。 「なぜだ。なぜ王は、アブネルを生かして帰すのだ。」 ヨアブは周りの者に当たり散らした。事情を聞いて回ると、ダビデがアブネルと手を結ぶことにしたという。 （冗談にもほどがある） ヨアブは直ちにダビデのもとに赴き、直訴して言った。 「いったい、どういうことですか。アブネルがあなたのもとにやってきたのに、なぜ、みすみす去らせたのですか。アブネルのことはよくご存じのはずです。あの男が来たのは、王を欺いて動静を探り、王のなさることを全て調べるためなのです。」 だが、ヨアブの訴えにダビデはあまり耳を貸さなかった。ダビデを翻意させられなかったため、ヨアブは密かに決断した − ヨアブはダビデの元を引き下がると、アブネルを追って使いの者を出した。急いでアブネルに追いついた使者は、ボル・シラ（位置不詳）でアブネルに追いつき、アブネルをヘブロンに連れ戻した。 アブネルが戻ると、ヨアブは静かなところで話したいと言ってアブネルを城門の中に誘い込んだ。ヨアブの弟、アビシャイもヨアブに同行した。アサエルの一件があったものの、ダビデとの協力関係が成立していたため、滅多なことは起こるまい − アブネルはそう考えていたが、ヨアブの考えは違っていた。雑談の隙をついてヨアブは剣を抜くと、アブネルの腹を貫いた。こうしてアブネルは死に、ヨアブは弟アサエルの血に報いた。
後になって、ダビデはアブネルがヨアブに殺されたことを知った。「何ということだ。」ダビデはうめいた。アブネルは先代の王サウルの元で、軍の司令官として数えきれない実戦経験を持つ。ダビデの今後の戦いを考えれば、貴重な指揮官を失ったも同然だった。しかも今、アブネルは北イスラエルの各部族の長老たちを、エシュバアルから離反させてダビデの側につかせる外交・政治工作に着手するところだった。今ダビデにとってアブネルを失うことは、軍事的にも政治的にも打撃だったのである。ヨアブの復讐心は無理のないものだったとはいえ、ダビデの今後の政治的課題を考えれば、今アブネルを殺すことはダビデにとっては決して賢明なことではなかった。だがそんなことはお構いなしにヨアブはアブネルを殺してしまったのである。 （次回に続く） 参考地図1-6-15：アブネル、ダビデの側につく〜アブネル、暗殺される
|
