イスラムの歴史 (2010-7-5)

(2010-7-5)　洞窟における遭遇　part 2

（前回からの続き）

　サウルが用を足し終わるまで、わずかな時間しかない。その一瞬の時間で考えを巡らせると、ダビデは何を思ったのか、静かにサウルの背後から近づくと、サウルの上着の端を切り取った。そうして、また静かに、引き返してきた。

　部下たちは唖然とした。声に出してこそ言わなかったものの、必死にダビデに合図を送った。（何をしてるんですか。サウルを殺すなら、今です！）　だが、ダビデは部下たちに、急いで洞窟の奥に戻るよう合図すると、急いでダビデの一行が隠れている場所まで戻った。

　サウルに聞こえないところまで戻ると、部下は小声でダビデをなじった。

　「一体、どういうことです！？　この機会にサウルを殺さないなんて、どうかしてます！」

　ダビデは答えて言った。

　「どんなに暴君ではあっても彼は私の主君である。主が油を注がれた方に、私が手をかけることは主が許されない。彼は、主が油を注がれた方なのだ。」

　ダビデがそこまで言うのであれば、仕方がない。不承不承、部下も従った。

　やがてサウルは洞窟を出て、軍を率いて移動していった。それを見届けると、ダビデは部下を引き連れて洞窟を出た。

　そうしてサウル一行に背後から近づくと、ダビデはサウルに呼びかけて叫んだ。「我が主君、王よ。」

　サウルの部下はサウルに報告した。振り返って見れば、そこにいるのはダビデ一行ではないか。驚いてサウルは腹心や親衛の兵を連れてダビデの方向に向かった。

　ダビデは顔を地に伏せてサウルを迎えた。ダビデの配下もその後ろに控え、ダビデ同様に顔を地に伏せて待った。サウルはダビデの前に出た。やっとダビデを捕らえられるのだ。

（次回に続く）