イスラムの歴史 (2020-02-08)

(2020-2-8)　アステュアゲス王とハルパゴス

　とはいうものの、聖書に書いてある話も史実ではない部分も含んでいるのだから、ヘロドトスに対してのみ史実性をシビアに求めるのは不公平というものであろう。以下、史実ではない部分を含む可能性を考慮しつつも、ヘロドトスの『歴史』を引用していくこととする。

　『歴史』をそのまま引用すると長くなるので、再び、私なりにかいつまんで話を書いていくこととする。

　先に、キュロスが両親のもとに送り返されるまでの話を書いたが、実はこの話に関連して別の出来事があった。先述のように、キュロスが実は生きていたことがメディア王アステュアゲス王に露見したのだが、自分の命令を徹底しなかった家臣ハルパゴスに対して王は罰を下したのである。

　王は、「王子が生きていたことを祝う」という名目で祝宴を開き、ハルパゴスも呼んだ。その宴に先立って、王は家臣に命じてハルパゴスのたった１人の子を殺して、料理してしまったのである。そうして、他の出席者には羊の肉料理を、ハルパゴスには彼の子の肉料理が並べられた。

　宴が進み、ハルパゴスが料理を食べ終えた頃を見計らって、王はハルパゴスに料理はうまかったかと尋ねた。ハルパゴスは、大変結構でございました、と答えた。かねてから王に命令されていた者が、覆いが掛けられた大皿をハルパゴスのそばに持ってきて言った。「覆いを取って、お好きなものをお召し上がりください。」　言われたとおりにハルパゴスが覆いを取ると、そこに盛られていたのは我が子の頭と手足であった。

　それを見てもハルパゴスは自若としていた。王は「食べた肉はどんな獣の肉か、わかったか？」と聞いた。ハルパゴスは「わかりました。」と答えた。さらにハルパゴスは「王のなされることにはどのようなことでも、私は満足でございます。」と言った。そして残りの肉と遺体を持って自分の屋敷へ帰っていった。おそらくは手厚く葬ったのであろう。

　表面上は平静を装っていたハルパゴスだったが、内心では、はらわたが煮えくり返っていた。この事件以後、彼の心の中は、いかにしてアステュアゲス王へ復讐するかという炎だけが占めるようになったのである。

（『歴史　上』p.94～97（第1巻第117～119節）

前の記事　　　次の記事