イスラムの歴史 (2007-6-22)

(2007-6-22)　ハガルとイシュマエルの追放 part 1

　アブラハムの話を続けよう。

　さらに時が流れた。アブラハムとサラの間に生まれた男の子、イサクもすくすく育ったが、先にアブラハムとハガルの間に生まれた男の子、イシュマエルがイサクをからかっているのを見てサラは腹を立てた。ただでさえ、自分はずっと子どもに恵まれなかったという鬱積した思いがあったのだろう。夫のアブラハムに訴えた。「イシュマエルがイサクをからかっているのを見るには耐えません。もともと、私たちの子どもではないじゃないですか。ハガルもイシュマエルも追放しましょう。イサクが私たちの跡継ぎではありませんか。」

　アブラハムは大いに悩んだ。サラの言うこともわかるが、アブラハムにとってはどちらも可愛い我が子には違いない。悩む日が続いたが、ある日、神が告げた。「ハガルとイシュマエルのことで悩む必要はない。サラの言うとおりにしなさい。イサクがあなたの跡を継ぐが、イシュマエルもまた１つの国の父となる。イシュマエルもあなたの子だから、だ。」

　アブラハムは神の言葉に従い、明くる日、ハガルとイシュマエルを追い出した。出発にあたり、パンと、水が入った革袋（現代で言えば、まぁ水筒か）を与えた。奴隷の身分としては、主人に追放を宣告されてはなすすべもない。主人に与えられたパンと水を手に、イシュマエルを連れて荒野をさまよった。

　さまよったところで、どうなるものでもない。荒野を歩いて歩いて、やがて水が尽きた。母親も子どもも喉が渇ききっていたが、もう水がない。疲れ果てて、ハガルは子どもを低木の下に寝かせた。このままでは自分も子どもも死ぬ。自分のことはともかく、子もやがて死を迎えるかと思うと、ハガルには耐えられなかった。「我が子が死ぬのを見るのには耐えられない。」　ハガルはよろよろと、子を置いた木から離れていった。自分自身の体力も、もう限界である。矢の届く距離ほどまで離れて歩いたところで、力尽きて座り込んだ。振り返れば、子どもは疲れ果てて木の下で寝ている様子が遠く見える。自分たちの運命を思って、ハガルは泣き崩れた。

　すると、神の言葉が聞こえた。「ハガルよ、恐れるな。神はあの子の泣き声を聞かれた。行って、子どもを抱きしめなさい。私は、必ずあの子（の子孫）を大きな国民にする。」　神の言葉に冷静さを取り戻したハガルが辺りを見渡すと、遠くに井戸のようなものが見えるではないか。よろめきながらやがて井戸にたどり着いたハガルは、井戸の水を飲んで元気を取り戻した。革袋に水を満たしてイシュマエルのもとにいき、子に水を飲ませた。二人は助かったのである。

　やがてイシュマエルは、弓を射る者（狩猟の民）の祖先となった。なお、イスラム教のコーランの中ではイースマイールとして登場し、アラブ人の祖としている（『岩波イスラーム辞典』大塚和夫ほか編、岩波書店、２００２年より）。

（今日の話は、旧約聖書　創世記　第２１章９～２１節から）

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